大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(ネ)1482号 判決

凡そ物の継続使用を目的とする賃貸借契約は、賃貸人と賃借人間の信頼関係を基礎として成立するものであつて、賃借人の何人であるかは賃貸人のこの主観的な信頼感に至大の影響を及ぼす事項であると共に、客観的にも賃借人の資力、性行職業等異なるときは、おのずから物の使用収益の程度、方法その他賃料の支払についてもまた別異の結果を生ずるものであるから、民法第六百十二条は賃借権の譲渡や転貸につき賃貸人の承諾を必要としたものであることは明らかである。本件の場合前示(イ)及び(ロ)において認定した如く、なる程賃貸建物はマーケット用として建築せられた粗末なものであり、当初賃借した訴外奈良敬一は、若干の権利金を賃貸人に支払い且賃貸人の承諾を得て造作を附加し、のちに賃借権を訴外相野谷周夫に譲渡し、被控訴人は同人から家主の同意を得らるべきものと信じて右賃借権を譲受け、いずれも右賃借権の譲渡その他造作権利の代償として相当の対価を支払つた事跡あるにしても、適法な従前の賃借人としては、もし賃貸借の継続を欲せず、しかも賃借権の譲渡につき家主の承諾を得られないとすれば、右賃貸借を終了せしめて造作の買取請求その他適当な方法を以てこれが救済を求め得べく、この場合賃借権の譲渡を認めるにあらざればその受けた不利益を囘収するに困難であるとか或は家主の同意を得べきものと信じて賃借権を譲受けた者の保護に欠ける所があるとかの理由を以ては未だ無断賃借権の譲渡を正当化する事由たり得ない。

また賃貸条件の多少の利不利は自らその条件を承認したものである以上、今更これを云為し得べき筋合でない。更に賃借人を選択することは契約自由の原則に立つ現下の社会通念からすれば特別の事情のない限り原則として賃貸人の主観的判断により自由に決し得るところであると解すべきであるから、前記相野谷から本件建物の賃借権を譲受けたという被控訴人が、偶々客観的に見て該建物の賃料相当額を支払う能力において欠けることなく、また家屋の使用程度目的方法等について通常人と異なるところがないとしても、これのみを以ては賃借権の譲渡につき賃貸人の承諾を必要とした前記法条の保護する賃貸人の利益は充足されているとも解し得ない。尤も現在においても一般市井の住宅事情は或程度困難な状況にあるとはいえ、既に相当緩和せられていることに鑑みれば、前叙認定の諸般の事情を考慮するも、未だ控訴人の本件賃借権譲渡拒絶を以て適法な権利行使の範囲を逸脱し著しく信義の原則に反するものと謂い難く、その他被控訴人の提出援用の凡べての証拠によつても、控訴人の右同意拒絶が自己に何等利するところなく、専ら相手方を窮境に陥らしめることを目的とする等、社会通念に照らし所謂権利の濫用として許容できない筋合のものであると断定し得るような資料の認むべきものはないから、この抗弁も採用に値しない。

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